生き物を育てることは、ほんとうに素晴らしいことですよね。ただ見ているだけで癒されたり、心が豊かになったり、意外な発見をしたり。生き物と一緒にわたしたちも成長できるものです。でも時として、いろいろな悩みも生じるのも事実です。
このブログでは、これまで様々な生き物を育ててきて、現在希少なハ虫両生類の飼育繁殖と、ケージ製作を手がける著者が、過去から現在において、直面した課題にどう対処したか、アオカナヘビを中心としたトカゲたち、その他の気ままな日常とともに、随時紹介していきたいと思います。
アオカナヘビ
本州に生息するカナヘビ似ていますが、鮮やかなグリーンの体色をしています。こんなきれいなカナヘビが、南西諸島にはいるんですね。沖縄の緑色したカナヘビはほかに、このアオカナヘビによく似た、サキシマカナヘビとミヤコカナヘビがいます。ただし、一般に流通しているのは、現在アオカナヘビのみです。わたしは、2018年のクリスマスに、とあるショップでトリオで売りに出されていたアオカナに一目ぼれし、すっかりその魅力に取りつかれ、今日に至っています。
飼育経験
実は、わたしはそれまで、爬虫類の本格的な飼育経験はありませんでした。わたしが最も知見を持っているのは、鳥類です。そして、幼少時から飼育に親しんでいるのは、魚類です。アオカナに出会うまでなぜか間が抜けていたのですね。(笑)
現在は、それらに加えて爬虫類、また両生類も飼っていますが、飼育のイメージはアクアリウムに、治療のメソッドは小鳥の経験によるところが大きいです。最近まで猫も飼っていました。しかし今年の1月に、最後の猫が亡くなった(二十歳)ので、今は哺乳類は飼っていません。猫以外では、モグラを飼ったことも。
モグラ
話のついでなので、ちょっと思い出をたどってみましょう。地方に住んでいる場合、モグラを見かけることが多いかと言えば、必ずしもそうではありません。ただモグラの活動の痕跡はよく見かけますよね。畑に行けば、モグラ塚があったり、種をまいた畝を掘り返されたりして。農家にとっては害獣となっているようで、トラップや忌避剤も売られています。トラップは、塩ビ管でも作れるので、昔畑に行って仕掛けたりしました。一度かかったこともあったのですが、すでに死んでいましたので、仕掛けた大人は満足していましたが、ひとりがっかりした記憶があります。したがって、わたし自身は大人になるまで、生きたモグラに出会ったことはなかったのです。
最初の出会いは、2015年梅雨のころ。庭の地面を何かが、ガサガサと動き回っていたのです。ネズミの動きとも違うので、思い切って手づかみにすると、それはモグラでした。この時期は、モグラの活動が最も活発になる時期ですが、地表で活動するのはまれなので、幸運でした。念願かなって生きた状態のモグラを観察する機会がやって来たのです。その後はせっかくなのでちょっと飼ってみよう、となって、周りの顰蹙も構わず、飼うことにしたのですが、・・・・・・。
今、手元に『完全図解 生きものの飼い方全書』(東陽出版)という本があります。これは原生動物(アメーバ、ゾウリムシ)や無脊椎動物・昆虫から魚、哺乳類までの飼育方法を網羅的に扱っていて、小型の哺乳類だと、犬猫はもとより、タヌキやイタチ、コウモリやモグラも載っている、ある意味すごい本です。わたしが小さいころ、外祖母と行ったデパートの本屋さんで買ってもらってからというもの、まるでバイブルかなにかのように座右において飽きずにみていました。わたしは小さいころから、いろいろな図鑑を見るのが好きでした。こんなマニアックなものは唯一無二でした。
執筆者は、たとえば鳥類であれば宇田川龍男博士です。ほかの項目も、有識者や有名動物園の飼育技師などそうそうたる面々によって分担執筆されていますが、初版が1986年とあって子供の目にも古めかしい感は、否めませんでした。モノクロの挿絵も、リアルというよりむしろ味があるという感じで。でも、「もぐらって飼えるんだ・・・・・・飼ってみたいな、いつか」という思いは、たぶんこの「小型の哺乳類 モグラの飼い方」のページに行き着きます。
実際、モグラを飼ってみてどうだったかというと、飼って飼えないことはありませんが、いわゆるペットには不向きということになるでしょうか。まず特徴として、モグラの仲間は、非常に代謝が早く、大量の食物をとって生きています。飼育する場合、迅速に餌付けなければなりません。彼らは鋭い嗅覚と旺盛な食欲を持っているので、まずは野生下で食べていたもの(ミミズや土壌棲の昆虫)を与えれば、食べます。さらに、ミルワーム等の市販の昆虫もすぐ食べますし、ハツや鳥の卵や、最終的にはキャットフードにも、案外早く餌付かせることができました。
しかしこれらにも問題がないことはありません。栄養要求も含め、彼らのことはほとんど分かっていないのです。餓死しやすいということで、少なくとも1日34回ごはんをやっていたと思いますが、飼育してしばらくすると、日に日に体格が良くなってきましたし、体重も増加してきました。当初妊娠しているのかとも思い、もしそうなら、さらに貴重な体験ができるとわくわくしました。モグラの人工繁殖はあまり知られていません。持ち込み腹だったとしても、仮に飼育下で子供を産めば、これは大変珍しいことです。あちこち問い合わせたり、病院に行ってエコーを使って調べたりしたのですが、おなかに胎児はなくて、単に肥満ということのようでした。飼育動物にとって、肥満はつきものですが、その害は軽視できないんですよね。わたしは最近、卵から育ててきた3歳のニホントカゲを亡くしました。肝臓を悪くしてしまったのですが、根本的な原因は肥満だったようです。これについては機会を改めて報告したいと思います。
さて、モグラの話に戻りましょう。わたしは、数少ないモグラ飼育の参考書として、今泉吉晴氏の著書も図書館から借りてきて、くまなく読みました。動物学者の著者は、モグラをユニークな装置で長期的に飼育観察したのですが、それは金網で作ったトンネルをつなげて、モグラが縦横無尽に動き回れるというものでした。これにより、居ながらにしてモグラ本来の動きを観察でき、かつ動くことで絶えずブラッシングされるので毛並みも美しいままに維持できると、理にかなったものでした。水槽では、とうてい彼らのQOLを満たすことはできませんので、なるほどと思い、さっそく自作しました。゛空中モグラ゛の著者は、大学の研究室いっぱいにトンネルを設置したので、総延長は何メートルなのか、相当大掛かりで本格的なものでしたが、わたしが作ったのはせいぜい34メートルほどでしたので、たかが知れているのですが、傾斜をつけたり、分岐させて、一方を拠点となるケージとつなげたりして、その中をモグラが進んだり、進むのと変わらないスピードでバックしたり、さながらプラレールのようで、見ていてなかなか楽しいものでした。愛猫も年中そばで見ていました。この猫は、けっして鳥もネズミも取らないのですが、目の見えないモグラも、天敵に見られているなどのストレスは感じるものらしく、ある時からしっぽを自咬し始めました。さらに、モグラの掌に、金網との摩擦による胼胝ができつつありました。これは、自然下では起こりえないことですよね。著者は、その後モグラを飼育して研究することは止めたのですが、はっきりした理由は明らかにされていなかったと思いますが、モグラを飼った人間にしかわからない、共通の何かを感じました。わたしも、このモグラを逃がすことに決めました。
11月のある日、庭は落ち葉で覆いつくされていましたが、ところどころ土が盛り上がっているところがあり、そこに知られざる地下世界の入り口があるはずなのですが、つぶれていない新しそうな一つを切り崩すと、はたしてモグラの穴が現れたので、そこに5か月にわたって飼育したモグラを帰してやりました。もうモグラを飼うこともないだろうと言うのがこの時の実感です。後日談ですが、このモグラとは、その後庭で再会しました。しっぽが半分なので、すぐわかりました。少しやせたようにも見えましたが、5か月の不在の間に、別のモグラが根城に侵入してきたりして、彼らの世界でもいろいろあったものと思われます。またわたしは、その後も、しばしばモグラを見かけました。もちろんこれは、同一個体ではありません。でも一度縁ができたためでしょうか。ふしぎですね。そんなことを考えながら、ひょっこり出てきたモグラが、土に潜っていくまで、足を止め、しばし見入ってしまいます。以上がモグラの話になります。